東京地方裁判所 昭和48年(ヨ)2904号 決定 1973年6月20日
東京都渋谷区恵比寿西一丁目八番二号
債権者
伊藤茂
<外三名>
右債権者ら訴訟代理人
佐藤正三
東京都渋谷区恵比寿西一丁目八番一号
債務者
渡辺於莵吉
<外三名>
右債務者ら訴訟代理人
五十嵐敬喜
主文
債権者らの本件仮処分申請はこれを却下する
理由
債権者らの申請理由は要するに、債権者らが別紙目録記載土地上に鉄筋コンクリート造地下一階地上六階店舗事務所共同住宅を建築しようとしたところ、債務者らは生コンクリート車の運行を阻止するなどして工事を妨害している、というのである。
よつて案ずるに、本件疎明資料によれば、債権者らが本件地上にその計画どおりの建物を建築した場合には、債務者渡辺の居住家屋の日照開口部において冬至で午前九時頃より午後二時頃まで完全な日影に入り、午後二時過ぎ頃より日照は開始することになるが、これも債権者伊藤所有の別個の建物により阻害され、結局、一日中完全に日照を奪われる結果となること、また、債務者斉木居住家屋の日照開口部においては、冬至で午前一〇時三〇分頃以降日影に入り、一二時三〇分頃以降完全な日影内に入つて終日回復しないことが一応認められる。
右のような状況では、本件土地が商業地域、第五種容積地区内にあり、且つ、周囲に高層建築が多数築造されていることが疎明されても、右債務者らにとつてはその受忍限度を超える被害を蒙るものというべきであり、従つて債権者らの本件建物の建築はもとの設計のままでは許されないものである。
よつて右建物の建築工事を前提とする債権者らの本件仮処分申請は、その余の点について判断するまでもなく失当であるからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。 (安国種彦)
物件目録
一、東京都渋谷区恵比寿西一丁目八番三の一部
宅地 111.89平方メートル
一、同所 同 一丁目八番一六
宅地 119.76平方メートル
一、同所 同 一丁目八番一七
宅地 69.39平方メートル
一、同所 同 一丁目八番一八の一部
宅地 110.76平方メートル
一、同所 同 一丁目八番一九の一部
宅地 26.585平方メートル
(別紙図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(イ)の各点を直線で結んだ線によつて囲まれた宅地438.385平方メートル)
(編注) 別紙図面は昭和四八年(ヨ)第三三八二号事件決定のそれと同じ。
仮処分命令申請
〔申請の趣旨〕 一、債務者等は債権者等の占有する別紙物件目録記載の宅地、此面積438.385平方米(物件目録添付図面(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(イ)の各点を直線を以て結ぶ線によつて囲れた部分の宅地132.61坪)に立入つてはならない
二、債務者等は債権者等の前記宅地此の面積438.385平方米(132.61坪)内に建設しつつある鉄筋コンクリート造地下一階地上六階建店舗事務所共同住宅ビルデング壱棟(地下壱階220.50平方米1階346.555平方米、弐階348.46平方米参階336.55平方米四階305.05平方米、五階273.55平方米、六階219.896平方米PHI階24.90平方米以上合計面積2075.461平方米)の建築工事の妨害となる一切の行為を為してはならない。
との御裁判を求める。
〔申請の原因〕 一、本件申請物件の目的土地は債権者伊藤茂外一名の所有地であり、右宅地は国電恵比寿駅より徒歩一、二分の繁華街であり、且つ本件土地並に其の周辺一体は所謂建築基準法上の商業地域である。
二、債権者伊藤茂、同北沢建設株式会社、同立野弘之は、本件地上(此の面積438.385平方米、132.61坪)に共同して、地下一階地上六階の鉄筋コンクリート造店舗事務所共同住宅壱棟を建築する為め、債権者ミトモ建設株式会社に其の建築工事を請負わせ、昭和四七年一二月二二日、右ビルデング建築確認の認可を渋谷区より受け、昭和四七年一二月二八日、右工事に着工せしめ、右債権者ミトモ建設株式会社は、昭和四八年二月二七日基礎のコンクリート打込工事完了、並に地下一階のコンクリート打込工事は、同年三月一六日に完了、更に同年四月六日、一階の仮枠工事取付並に配筋工事を完了した。而して、右ビルデングの完成は昭和四八年九月三〇日限りと、請負契約に於て、確約されているものである。
三、然るに、債務者等は、何れも債権者等の為す本件ビルデング建築工事に昭和四八年四月七日頃より、妨害を始め、債権者の為す生コンクリート圧送車の運行を阻止し、既に四〇〇万円にのぼる損害を債権者等に与へて、更に引き続き、本件工事の進捗を妨害している。
四、本件建築地は上述の如く、商業地域であり、且つ、渋谷区により中心再開発共同ビル建設推奨地区である。債務者等は、今後も、他の勢力を導入して、不法に本件土地に立入り、又は本件工事の進行を、妨害する虞れが充二分にあるので、債権者等は止むなく本申請に及ぶ次第であります。疎明方法<省略>